チセヌプリの憂鬱

チセヌプリの憂鬱

前回の記事〜プロローグ〜不幸なチセヌプリに追記する。

岩内町と蘭越町との比較

チセヌプリスキー場と同様にパウダースノーを売りとしたスキー場として、岩内スキー場 (現在のIWANAI RESORT) がある。どちらも町営のスキー場であったが、収益上の理由から、同時期に民営化の道をたどった。そして、2017-18シーズンから両スキー場は、運営を開始した。

以下、岩内スキー場の推移を示す。

1980年 株式会社グランドレジャーという本州の会社がスキー場オープンした。1987年に撤退。
1988年 岩内町が200万の出資金で株式会社観光開発いわないを設立し、次の民間会社が決まるまで、つなぎ運営をした。
1989年 株式会社ウエストバレーが「ニセコウエストバレーいわない国際スキー場」として運営。塚本産業という会社の出資によりクワッドリフトを建設(1990年)後、12万5千人の来客を記録した。
1998年 株式会社ウエストバレーが撤退。同年クイーンズランド株式会社運営開始。
2001年 クイーンズランド株式会社撤退を表明。クワッド、第4・5・6リフトが停止した。
2002年 岩内町地域振興協会が設立され、「ニセコいわない国際スキー場」として運営が再開された。この年から、センターリフト(ペアリフト)のみの可動となった。
2017年 外資系のユキカムイ株式会社が IWANAI SKIRESORT としての運営を開始。

チセヌプリスキー場との大きな違いは、チセヌプリのスロープが道有地であるのに対し、岩内のスロープが町有地であることだ。

岩内町は、スキー場の存続を地域活性化策の一つとして捉え、町としてスキー場を支援すること決定した上で、外資系のユキカムイ株式会社にスキー場の運営をゆだねた。

  • 新たな開発に伴う町有地および建物(ヒュッテ)の売却
  • ゲレンデの使用に伴う町有地およびリフト設備の無償貸付など

岩内スキー場(Iwanai Resort)の運営実績

ユキカムイ株式会社の事業計画と運営状況の詳細は、 岩内町に報告され、岩内町はそれらを公開している。

事業計画

ユキカムイ株式会社は、単にスキーリフトのオペレーションを行うのではなく、総合リゾートを開発しようとしている。

岩内開発計画

さらなる詳細については、岩内町がユキカムイ株式会社の提案書を公開している。

岩内リゾート開発概要

運営状況の詳細

2018-19シーズンまでの利用状況(売上)は、次の通り広報されている。

岩内リゾートの報告

2018-19シーズンのCATスキー(キャットツアー)の売り上げは、70,200円×999名で約7千万円と計算できる。

チセヌプリスキー場の収支予定を比較

ここでJRTが蘭越町に提出した収支予定表を確認したい。

JRTが提出した収支予定表

CATスキー(パウダースキー)による収入は、わずか600万円とされている。

ついでに CATスキー の料金単価を計算すると、600万円÷400(利用者数)から1.5万円となる。1.5万円という料金は、格安と言われた岩内のCATスキー料金2.5万円( 2016-17シーズン )よりも安い。 こんなところからも、JRTの収支予定表がいい加減であることが露呈している。ちなみに、JRTが実際に設定したCATスキーの料金単価は3万3150円(2019-20シーズン )である。

IWANAI RESORTが7万円を超える料金単価で約1000人を動員した実績を鑑みれば、同時期に運営を開始したチセヌプリが同等以上の利用者を集めてもおかしくはない。人の集まるニセコエリアからのアクセスに優れ、料金がIWANAI RESORTの半額以下だからだ。

いずれにしろ、JRTが600万円と示したCATスキーによる収入は、根拠が希薄である。JRTの収支予定の疑惑はそれだけではない。前回のコラム不幸なチセヌプリスキー場で指摘したとおり、実現性の低いスクール運営に多額の収益を計上していることだ。

所感

前回のコラム不幸なチセヌプリスキー場では、そもそも JRTにリフトを再開するつもりなどなかったことを、理由を添えて記した。そして、本コラムで指摘しているのは、JRTの収支予定書に偽計の疑いが強くなったことだ。

JRTは、CATスキーの収益性を低く見せることによって、リフトを架けない口実にするつもりなのだろう。 岩内町と違って、町が事業者に特別な便宜をはかっているわけではないので、 JRTが蘭越町に運営状況の詳細を報告する義務もないからだ。

もし、JRTがCATスキーだけで一定の利益を上げたとしても、収支予定にスクールが存在することが CATスキーの利益を分かりにくくする。同時に、スクールの不調は、リフトを架ける予定が遅れる口実となる。なぜなら、JRTの収益予定表にスクールに高い比重が置かれているからだ。そうして、リフトを架けないまま転売することによって、投資リスクを抑えながら、 撤退までの出口戦略までを通して、収益の最大化を実現する。JRTの目論見はこんなところだろう。

前のコラムにも記したとおり、JRTによるスキー場の排他的運営に対し、複数の苦情があったが、蘭越町はそれを調整することはなかった。それどころか、「文句があるなら土地所有者である北海道に言え」と言わんばかりの対応をしてきたようだ。 山内勲副町長は、筆者が蘭越町に取材した際、争訟を持ち出してけん制する事業者がいたことを、まるでせせら笑うかのように言及した。

ふたつのスキー場の相違点

蘭越町と岩内町の双方によって、短期的な財政面において、スキー場はお荷物であった。しかしながら、 スキー場は、運営の仕方によって、町を活性化させる重要施設となり得るものである。隣接するニセコエリアが世界的なリゾートに変貌を遂げようとしているのだから、その波及効果を鑑みれば、スキー場に期待が向けられるのは当然だろう。

蘭越町と岩内町との違いは、岩内町がスキー場を地域活性化策と位置付けているのに対し、蘭越町が単に負の遺産としてスキー場を処理したことである。

もちろん、岩内町は開発可能なスキー場隣接地を所有しており、大きな事業の可能性があった。一方、チセヌプリに開発可能な隣接地がないので、総合リゾートにはならない。

前のコラムでも示した通り、 スキーリフト(索道事業)は鉄道事業と同じで、運搬だけで収支を黒字化することは困難だ。つまり、リフトの再開によって増収となる宿泊や不動産事業を持たない事業者が、リフトの再開に多額の投資をすることはないである。 同様に、ビジネスや投資のセオリーから考えれば、JRTが巨額の負債を抱えてリフトを架けかえる可能性はないのである。

蘭越町がすべきこと

JRTの提案に偽計があるのだから、蘭越町はそれを理由として、契約の解除、または、売った価格での買戻しを検討すべきだろう。一般の利用が極めて少人数の富裕層がスロープを独占する現在の運営は、自然公園法の定める「適正な利用」からも逸脱している。

蘭越町には、リフトの再開を心待ちにしている町民がいる。とりわけ、スキー場に面した場所で投資または事業を行う者たちにとっては死活がかかっている。

蘭越町のひとつ目の罪は、スキー場を存続させることに多くの署名をもらっていながら、リフトの再開を条件とせずに施設を売却してしまったことだ。ふたつ目の罪は、動くことのないリフトの再開を町民に期待させるだけで、何もしようとしないことだ。

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