倶知安駅前の交通マネジメント案
前回のコラム「倶知安町の駅前再開発」に示した通り、 倶知安町が検討している 「まちづくり」 プランは、単に都市計画区域に色付けされているだけだ。そして、駅ビルや公共施設の建築を除けば、土地所有者が都市計画区域の枠内で自由に建物を建てる。極めてまれな建築協定が実現しない限り、行政による「まちづくり」の有無などまったく関係ない。
そして、行政が「まちづくり」をする場合においてポイントとなるのは、道路の整備である。そして、道路を整備をする前に、交通マネジメントを明確にすることが重要である。人とクルマをどう流すか、駐車場をどうするかを先に決めなければ、交通がマネジメントされない街になるだけだ。
まずここで、現在の状況を確認しよう。
現状とその原因
すべての道路は、漫然と相互通行とされている。こうなってしまう原因は、道路管理者と交通管理者(警察)が縦割りとなっているからだ。
日本以外の国では、地方自治体が道路建設と交通マネジメントを行っているのに対し、日本の地方自治体は交通マネジメントの権限を持っていない。そして、すべての交通規制が警察に牛耳られている。
道路交通行政において、道路建設と交通マネジメントは表裏一体である。それが日本では、ただ分離されているどころか、国のレベル(官僚機構)で縦割りとなっているのである。
交通マネジメントの権限は、法律上は公安委員会に委ねられている。しかしながら、国の公安員会も地方の公安委員会も、完全に形骸化している。そして公安員会は、警察が民主的コントロールから逃れるための盾となっている。
法律上、交通マネジメントは公安委員会の権限となっている。その権限は、全国一律で各都道府県の警察本部長が代行しているにもかかわず、警察は交通マネジメントの権限を明確に示そうとはしない。これは、交通規制と取締りにおいて、権力の分散( 規制は公安委員会が作り、警察がそれを取り締まる )をアピールすることが優先されているからだ。
また警察は、行政組織としてよりも、捜査機関としての側面ばかりを強調している。これは「強い警察」を広報することが警察の大きな指針となっているからだ。
そうして警察は、民意に耳を傾ける作業をしなくなったのである。
一方通行のメリット
西欧の都市では、一方通行による交通マネジメントが積極的に取り入れられている。なぜなら、一方通行による交通マネジメントは、交通の安全性と円滑性の両方において極めて合理的であるからだ。
- 対向車と向き合わなくてよいので、衝突リスクが減少する。
- 対向車を気にせずターンできるので、交差点の安全性は相互通行の比ではない。
- 歩行者は片側だけに気を配ればよいので、安全に道路を横断できる。
さらに、パーキングゾーンを作れば、商店街の賑わいを得る起爆剤になり得る。とにかく一方通行は良いことだらけだ。
一方通行には多くのメリットがあるにもかかわらず、日本の道は、漫然と相互通行で、両側が駐車禁止とされている。だから、多くの人が、何の疑問も持たず、そうした「まちづくり」を当然のように思いがちである。そこで、日本以外の国で、どのような「まちづくり」が行われているかを確認してみよう。
カナダの例
ハワイの例
上記2都市は特別な例ではない。日本以外の都市では、一方通行で交通の安全と円滑を確保し、道路を駐車場として積極的に活用してる。
米コロラド州アスペン市においては、より詳細な駐車マネジメントの状況を記事にしたので参照してほしい。
豪雪地帯における一方通行のメリット
豪雪地帯の倶知安は降雪期に道路が狭くなるので、一方通行のメリットはさらに大きくなる。
一方通行のプラン
一方通行による交通マネジメントプランを示す。
上のプランは極めてオーソドックスなプランである。駅前通りをさらに活性化させるためには、下のプランも考えられる。
まちづくり提言書は駅前通りを一方通行にするプランにも言及しているので、上のプランは非現実的なプランではありません。。
警察は街づくりに協力しない
まちづくり提言書のなかには、駅前通りを歩行者優先とすることが華々しく記されている。そして、委員会に交通管理者(警察)がいないまま、駅前通りを歩行者天国にすることが強調されている。注意深く見ると、歩行者天国は検討課題のようだ。また、駅前通りを歩行者優先とする方策のひとつとして、一方通行が極めて消極的に記されている。消極的なのは、それを書いた街づくりの専門家が「どうせ無理」と思っているからだろう。
そして、一方通行は決して導入されることはない。なぜなら、警察が街づくりに協力することがないからだ。
警察が街づくりに協力しないのは、警察官僚の利権が深く影響している。
- シンプルな一方通行より、相互通行+信号機に利権メリットが警察にある
- 車が停めやすくなる一方通行より、相互通行の方が全国一律の駐車禁止行政を正当化しやすい。
上の動画が示す通り、日本が信号大国なのは、長年にわたって、信号が警察官僚の利権となってきたからである。
そして信号が不要となる一方通行による交通マネジメントは、日本で行われなくなった。
駐車マネジメントができない日本
地方自治が機能している欧米都市では、都市のインフラとして、オン・ストリート・パーキング(路上駐車場)を広く取り入れることによって都市の駐車問題の解決にあたっている。
短時間の駐車は オン・ストリート・パーキング 、長時間の駐車はオフ・ストリート・パーキングという位置付けで駐車場が整備されていることは、西欧諸国に共通する。
一方、日本では、路上駐車が極端に困難なまちづくりが実施されている。これは警察庁と国土交通省が一枚岩となって推し進めたものであり、全国一律だ。さらには、路上駐車そのものが悪であるかのような広報が、マスメディアを動員して大々的に行われてきた。
路上駐車というと、多くの人がパーキング・メーター/チケットを思い浮かべるはずだ。しかしながら、日本のパーキング・メーター / チケットは、欧米のオン・ストリート・パーキングとはまったくの別モノである。
日本のパーキング・メーター/チケットは、根拠法が道路交通法であり、駐車規制の一種に過ぎない。料金を払えば1時間だけ違反を免除するものであり、欧米のオンストートパーキングとは根本的にちがっている。それゆえ、パーキング・メーター/チケットの領収書には「事務手数料」と書かれているのである。
巨大利権と化した公共の路外駐車場
国土交通省は、平成の時代に入ってから積極的な対策を行うようになった。それがハコモノ駐車場(路外駐車場)である。まず駐車場の需要の高い空港駐車場から始まり、現在では、国も地方も大量のハコモノ駐車場を供給している。
こうしたハコモノ駐車場のほとんどは、○×協会といった公益法人に運営がゆだねられている。そして、○×協会には、天下りの指定席がある。
詳しくは駐車場COMPLEXを参照ください。
地方の駅前商店街が廃れる原因
警察庁は全国一律で路上駐車を排斥した。一方、大店法が緩和され、駐車場が完備した郊外の巨大店舗が続々と作られた。 その結果、クルマ依存度の高い地方では、主要駅前にさえシャッター通りが続出している。駅前商店街ではクルマが停めにくいので、駐車場が完備した郊外店に客が流れてしまうからだ。
ここで、オンストリートパーキングが、国交省と警察庁と別々の法律に基づいていることを確認しておこう。
先に記したとおり、 日本のパーキング・メーター/チケットは規制の一種である。そして、欧米都市のパーキング・メーター/チケットは、日本の法律に当てはめると「路上駐車場」となる。では日本に「路上駐車場」が何台あるかというと、日本全国でたったの1000台強(国交省2007年調査より)に過ぎない。
路上駐車による街の活性化の可能性
横浜元町商店街は、一方通行路にオンストリートパーキング(PM/PT)の配された商店街である。筆者は横浜に長く在住していたので、数えきれないほど、この商店街を訪問した。知名度が高く、MM元町中華街駅とJR石川町駅を繋ぐ商店街であるにもかかわらず、平日なら駐車できないことはほとんどなかった。このことは、短時間の駐車ニーズへの対応策として、オンストリートパーキングが極めて有効であることを示している。
絶望的な中央集権体制
箸の上げ下ろしを規制するかような法律によって、ニッポンの地方自治体の「自治」は大きく制約されている。都市計画においても、地方自治体は中央省庁の用意するメニューを選ぶことが最大の仕事である。規制とヒモ付きの補助金によって、そうせざるを得ないのだ。
そうして、欧米都市では地方自治体が主体となっている道路交通行政が、日本では中央省庁に牛耳られる。さらに悪いことに、警察庁と国土交通省のタテ割りが、絶望的なほど、総合的・合理的な施策を拒絶している。
このコラムは、追って倶知安町と倶知安警察署への取材を行い、追記していきます。