国際リゾートの町としての可能性
すぐ隣の町で爆発的な好景気があるなら、その恩恵に預かることが、町を振興させるもっとも確実な方法だといえる。実際、最初の公募が行われた2014年7月、ニセコ観光圏が設立され、蘭越町は、ニセコ町・倶知安町と共に世界的な観光リゾートを目指すはずだった。
しかし残念ながら、公募に関する記録を見る限り、蘭越町の関係者らは、チセヌプリスキー場を重要な観光資源として認知していなかった、と言わざるを得ない。だから、提案された内容を評価することもできず、『特別な理由』で処分方法を決めてしまったのだろう。
町の為政者らがその価値に気付かないだけで、チセヌプリスキー場には、道内外に根強いファンが存在していた。そして、営業停止が発表直後に、存続を求めて7566人もの署名となったのである。
蘭越町は、そうした外部からの意見を、よそ者の戯言ではなく、貴重な意見として、耳をかたむけるべきであった。
仕切り直しの可能性はさておき、存続をもとめたチセヌプリスキー場のファンの声を再評価し、チセヌプリスキー場の可能性を認識したい。
全国から寄せられたスキー場の存続を求める署名
蘭越町がチセヌプリスキー場の営業休止を発表した2013(H25)年3月7日、スキー場の存続を求める7566名の署名を添え、札幌市在住のサザンレイクスヘリスキージャパン代表の市村剛志氏は、次の陳情書を添えて、蘭越町にチセヌプリスキー場の存続を陳情した。
チセヌプリスキー場の存続への陳情(要約)
チセヌブリスキー場が休止の方向である事で、チセヌプリスキー場の愛好者及びスキー関係者の協力により、署名活動を実施致しました。7566名の署名が集まり、多くのコメントが寄せられ、改めてチセヌプリスキー場の存在価値が大きい事を再認識し、ここにスキー場営業の継続を求めて陳清致します。
昨今スキー人口は減少傾向にありましたが、現在ではスキーブーム時代にスキーを楽しんだ世代の方々が、子供を連れてスキーを再びし始め、さらには人口幅の多い団塊世代のスキーヤーが趣味や健康維持といった目的で増加傾向にあります。
チセヌプリスキー場は山スキー愛好家にも、パウダースキー愛好家にも格好のスキー場と、人気が急上昇しているのが現場で感じられる事です。更には、スキーを滑った後にすぐ温泉に入れるという、特別な環境であります。
山スキーに至っては、マテリアルの進化によって誰でもが簡単に楽しめるようになりました。チセヌブリの場合、リフトが利用出来るので、高齢者でも山に登れると言う利点があります。 チセヌプリスキー場は山スキーへの導入としてすぐれた練習環境であります。リゾートなどで見られる、完成された施設や環境から起きる責任転嫁が、チセヌプリスキー場では自己責任の 認識に変わります。レジャーやスポーツに必要な自己責任のもと、緊張感や自制心、充実感、 自然のルールを誰もが感じる場所なのです。子供達への教育の環境でもあり、チセで滑った者には、モラルが生まれています。ローカル色は強いのですが、かえってそれが他にはない環境という点に結びついています。つまり他にはないスキー場なのです。
世界中でニセコのパウダーは世界一と言われています。チセヌプリのスキー場が休止になる事はニセコ全体の問題でもあるかと思います。
また、チセヌプリスキー場を利用して仕事をしている者、チセヌプリスキー場に来るスキーヤー・スノーボーダーを見越しているロッジ経営者などにとっては死活問題でもあります。
署名の多くの方のコメントが、「次世代の為にも」「素敵なスキー場をなくさないで」という事で存続を求めています。
今一度、チセヌプリスキー場の営業継続の方向性を探り、存続の為の検討を切望致します。
存続の求めは、町議会に陳情された。そして、総務文教常任委員会の審査を経て、町議会は陳情を採択した。
海外の山岳リゾートに対する優位性
ニセコのパウダースノーが紹介される場合、だいたい次のような説明が加えられる。
シベリアからの冷たい風は、日本海で水分を蓄える。
それがニセコ連峰にぶつかって、たくさんのパウダースノーを降らせる。
世界のほかのスノーリゾートと比較して、ニセコエリアが特徴的なのは、標高が低いことだ。参考までに、世界的に有名なスキーリゾートの標高(ベース付近)をリスト化した。
標高(m) | |
ニセコヒラフ(日本) | 240 |
ウィスラービレッジ(カナダ) | 675 |
サンクト・アントン・アールベルグ(オーストリア) | 1,304 |
バンフ(カナダ) | 1,384 |
サンモリッツ(スイス) | 1,822 |
クールシュヴェル(仏) | 1,850 |
アスペン(米) | 2,405 |
標高が低いことは、海水面が近いことである。実際、日本海に近いニセコ連峰は、岩内岳からの岩内リゾートで海に向かって滑り降りることができる。
ニセコ連峰から海へのルート
チセヌプリスキー場の上部には、ビーナスの丘につづく、初心者にやさしいバックカントリーがひろがっている。そこからシャクナゲ岳、白樺山、目国内岳に続く登山道は、羊蹄山から並ぶニセコ連山の景色が美しい。
WHITE MOUNTAINの2015年版では、チセヌプリを含む蘭越町の稜線を縦走し、岩内スキー場に滑り降りるルートが紹介されている。
ツアーを主催しているのは、塚原聡氏を代表ガイドとするHOKKAIDO BACKCOUNTRY GUIDES。
Hokkaido Backcountry Clubと名前が似ていて紛らわしいが、塚原氏は、キロロをベースとして、ガイドツアーを催行している。
パウダースノーと海が織りなす世界にまれな景色
ただ規模が大きなスキー場なら、海外にいくらでもある。ニセコが国際リゾートとなった最大の要因は、雪質の良さだといえるだろう。
その一方、ヒラフは混雑状態が目立つようになった。ニセコ滞在中に、キロロやルスツに遠征する人も少なくない。そして、アンヌプリ山頂に登るだけでは飽き足らない人は、毎年のように羊蹄山に登っている。
こうした状況は、ニセコアンヌプリにほど近く、広大なバックカントリーが背後に広がるチセヌプリスキー場の大きな可能性を示している。そして、パウダースノーを縦走し、世界にまれな海に向かって滑り降りるスキー場でクライマックスを迎えるスキーツアーは、蘭越町が国際スノーリゾートの町として、認知させることのできる観光資源だと思う。
サーフブランドのBillabongが作成した岩内のショートフィルムは、パウダースノーと海の融合した美しい映像が高く評価された。
チセヌプリスキー場の公募が行われた時期は、倶知安町やニセコ町とならび、蘭越町を国際スノーリゾートとして認知させるまたとないチャンスだった。それなのに、記録を見る限り、スキー場を町の振興に繋げるための議論は皆無であった。公募のキーパーソンであった金町長と山内副町長に取材した際に感じたのは、ふたりにスキー場を町の振興に繋げる意識がないどころか、スキー場の基本的な知識が欠けているように感じられた。そして、パワハラまがいのやり方でUTグループを排除し、値下げのためのアリバイ工作を行ったうえで、売却条件と契約内容を調整した行為には、蘭越町に損害を与えた背任の疑惑を感じざるを得ない。