幻の運営プラン
蘭越町が譲渡先として選定したJRTは、提案書に記されていない全山貸切型のCATスキーツアーだけを実施している。そして、他の登山者を排除するやり方が不評となり、JRTと地元のツアー事業者とは裁判沙汰の争いさえ発生している。
現状はさておき、過去には日本の大企業が練りに練った精密な事業プランを蘭越町に提案している。
- 蘭越本社の設置、社長ほか従業員の移住、町民の新規採用
- 通年型リゾート運用のためのサマーアクティビティの実施
- 子供向け体験型研修、企業社員・自治体職員向け研修事業
- Tバーリフト/ロープリフトとCATの組み合わせによるスキー場運営
- リフト撤去・Tバーリフト/ロープリフトほか、合計3.75億円の投資
- 現実的な客単価(リフト代2,000円、CAT15,000円)で、年間9万人超の集客
- 蘭越町民に対する優遇(年間フリーパス・1日料金半額・小学生無料)
- 蘭越町ニセコ連峰歩くスキー大会への全国からの集客
- 蘭越町の人口を超える事業規模(提案当時の在籍者8,168名)を生かした蘭越町特産物の販売
- 蘭越の農産物の加工開発、第6次産業化への寄与
- 販売施設の強化・地元食材提供飲食施設への投資
UTグループが断念した理由
およそ半年間の交渉の末、2015年11月に譲渡は決裂した。その原因は、11月2日にUTグループが山内副町長宛て送ったemailに示されている。
標記につきまして、 当社は平成27年4月2日付けで、以下の蘭越町ウェブサイトに記載された条件をもとに譲渡金額5000万円で譲渡希望者として応募しています。
http://www.town.rankoshi.hokkaido.jp/topics/2015/03post_193.html
(添付ファイルご参照)
公募条件の中で特に重視したのが、「譲渡金額以外の負担(保証金等)は一切無し」との条件でございます。この条件から、北海道から要求されるスキー場の原状回復義務について連帯保証を蘭越町様が行うものと理解しておりました。つまり、蘭越町様が連帯保証人となる条件は公募条件の中で極めて重要かつ大きな要素であります。
また、譲渡時点で、譲渡主休法人と別途法人で連帯保証を行うことの実質追加負担がない前提で全ての事葉計画を策定しておりました。
実際今年の6月時点までは、蘭越町様が通帯保証人となる前提で画越町様は北海道と交渉していたと蘭越町様関係者より口頭で報告を受け確認をしております。
2015年10月22日 UTグループ代表が山内総務課長(現副町長)に宛てたemailより抜粋
しかし、財政援助制限法第3条によれば「政府又は地方公共団休は、会社その他の法人の債務については、保証契約をすることができない」ため、新たに連帯保証先を見つける必要が生じたと認識しております。
上、UTグループの打診に対し、山内総務課長(現副町長)は、継続協議の中止を通知する文書を起案した。山内氏が起案した通知は、金副町長(現町長)と宮谷内町長の承認を経て、宮谷内町長名でUTグループに送られた。その文書を受けたUTグループは、譲渡を断念する文書を蘭越町へ送った。
当社としては、以下に示すように、公募条件が大きく変化し、その変化にともなって経済的合理性から見て極めて妥当な要望をしたにもかかわらず、蘭越岡様からのご回答がその要望に 事実上まったく対応していただけなかった点は大変遺憾に思います。
1)当初の条件:公募条件の中で「譲渡金額以外の負担(保証金等)は一切無し」 となっており現状回復義務についての連帯保証は蘭越町様がなっていただく 2)最新の条件;現状回復義務についての連帯保証は当社グループまたは別会社がおこなう
1)より2)は実質的な経済負担が当社にとつて最低でも5000万円拡大するため (現状回復義務をいつでもおこなえる財政余カを北海道様に示す必要があるため)、 負担増について蘭越町様に対して譲渡金額の引き下げ等を要望
2015年11月2日 UTグループ代表が山内総務課長(現副町長)に宛てたemailより抜粋
なぜか年末年始に実施された公募2回目
2015年11月2日をもって、UTグループとの交渉は決裂した。その約1カ月後の2015年12月18日から2016年1月29日にかけて、蘭越町は2回目の公募を実施している。初回公募が4か月以上の期間を置いたのに対し、2回目の公募は、わずか1ヵ月強だ。しかも、年末年始をはさんでいることから、実質的な検討可能期間は、2週間程度だ。
- 2014(H26)年 蘭越町が公募を開始(2014年12月‐2015年4月)
- 2015(H27)年 11月 UTホールディングスとの交渉決裂
- 2015(H27)年 再公募(2015年12月18日‐2016年1月29日)
- 2016(H28)年 売却金額を減額し、再公募(2016年3月‐2016年4月)
- 2016(H28)年 JRTとの売買契約が締結された(2016年10月28日)
年末年始を挟んだ2回目の公募が暗喩しているのは、値引きの材料づくり目的だ。なお、町の職員と話しをしていても、(正しくは)3回目の公募が2回目の公募として扱われている。2回目の公募の存在は、情報開示請求の過程で明らかとなったものである。
そして掟破りの大幅値引き
2016(H28)年3月2日、山内総務課長(現副町長)は、公募価格を5000万円から1000万円に引き下げる稟議書を起案した。この稟議書では、いったん20,000千円と記された公募価格が10,000千円に訂正されている。
また、公募期間は、初回公募が2014年12月‐2015年4月の4か月強であったのに対し、値引き後の公募は3月7日から4月22日までの2か月弱に短縮された。
大幅な値引きをして再公募する位なら、なぜ蘭越町は、UTグループの値引き要請を拒絶したのか?
UTグループの言う通り、初回公募において、譲受人が土地の賃借するために連帯保証人を立てる必要があることは記されていない。
後からを連帯保証人を立てろと言われて、UTグループがとまどうのは当然だろう。
参考までに、3回目の公募条件の抜粋を次に示す。
「なぜ蘭越町は賃借権を手放したのか?」に記したとおり、山内氏は、公有財産を運営/処分にかかる基本を理解していないと言わざるを得ない。残念ながら、賃貸借契約にかかる基本的な知識もない。そもそも、国定公園内の土地の賃借権を含め、すべての資産を売却処分すること自体がピント外れの選択である。
「チセヌプリCATスキー」と「蘭越町がわずか1000万円で売ったもの」に記したとおり、蘭越町が手放してしまったのは、東京ドーム22個分の国定公園を坪あたり1円以下の賃料で借りる権利と、古いが立派な建物である。
山内氏は、北海道との賃貸借が終了したときの原状回復費用をことさら持ち出しては、売却処分の正当性を示そうとする。しかしながら、「ワイスCATスキー」に示した通り、リフトの停止やスキー場の営業休止によって、即、現状回復を迫られるものではない。土地の所有者が国であれ、道であれ、スキー場として賃借した土地に対し、「スキー場を営業終了後、〇年以内に契約解除」といった期限などないのだから、折をみて、スキー場の再開を検討すればよいだけの話しだ。
まして、チセヌプリスキー場は、その立地の優位性と雪質の良さから、やり方次第で集客の可能性は大きく伸びる可能性があるのだからなおさらだ。事実、UTグループは年間9万人以上の集客を目標としていた。
それに対し、JRTが運営しているCATスキーは、1人13人の全山貸し切り、120日営業可能であると仮定し、最大利用者数は1,560人に過ぎない。大きな問題は、少人数で全山貸し切り型での運営は、提案に示されていないことにある。別の問題としては、全山貸し切り型で客単価を高くするために、他の利用者をスロープから排除していることがあげられる。また、安全確保を名目に排除していながら、CATの走行しないスロープさえ立ち入り禁止としているから、ツアー事業者とは、裁判沙汰のトラブルに発展している。とにかく、1日5万円を払える富裕層のためだけスロープとなっており、それを払えないバックカントリースキーヤーには、敬遠される結果となっている。事業者は儲かるが、これが地域振興になっているとは思えない。