公有財産としてのチセヌプリの賃借権
公有財産の取り扱いセオリー
公有財産には、価値のあるものと、ないものがある。それぞれについて、簡単にまとめてみた。
価値のないものの場合
価値のないものは、売却処分される。たとえば、財務局は、未利用地を積極的に売ろうとしている。道路わきの半端な土地や、計画変更などで不要になった送電線用地などだ。こうした、財務局が保有していても、使う予定のない公有財産は、所定の手続きさえ踏めば、誰にでも買える。
価値のあるものの場合
自治体にとって、価値のある公有財産は、保有したままで、運用するのがセオリーである。公有財産のままにしておくことによって、運用をコントロールできるからだ。
もし自主運用をしない場合、以前は転貸されることが一般的であったが、現在では指定管理者制度が主流となっている。島牧村が狩場山CATスキーツアーで選択した事業スキームも一種の指定管理者制度である。指定管理者制度とは、一定期間だけ運用する権利を一旦貸してしまうと、見直しが困難な転貸より、予め定めた期間内に施設を運用させるやり方に分があるからだ。
蘭越町が賃借権を手放した理由
蘭越町がリフトの所有権と合わせて、道有林の賃借権を譲渡してしまったのはなぜか?
この質問に対し、蘭越町の山内副町長は、北海道(尻別振興局)の森林室が転貸は「ダメだ」と言ったからだ、と繰り返し主張した。しかしながら、森林室は、環境保全と防災を主たる目的とする森林法を遂行するための部署である。その事務は、10年50年の長期展望で行われており、経済発展や地域振興を目的とするものではない。それゆえ、地域振興を目的として、森林室と協議するのであれば、森林室の特性を理解した上で、いかに地域振興に協力してもらうか、という戦略を立てて交渉すべきである。山内副町長の方便は、自ら戦略を立てて交渉すべき責任を放棄し、森林室に責任を転嫁していると言わざるを得ない。山内副町長が森林室にお伺いを立てるかのような話ししかしなかったから、環境保全と防災の話しにしかならないのである。
蘭越町が賃借権の譲渡を決めたことに理由はない
蘭越町の山内副町長は、筆者の幾度かの取材機会において、転貸は、北海道が「ダメだ」と言ったから、賃借権の譲渡(賃貸継承)を選んだ旨を主張する。
しかしながら、北海道が転貸をしないことはあり得ない。以下、その理由のうち3点を示す。
1.転貸等の禁止の条文には、「甲の承認を得ないで」転貸することができないと示されているに過ぎない
次に示す通り、転貸は禁止ではなく、甲の承認を得れば可能であった。
(転貸等の禁止)
北海道と蘭越町との道有林野賃貸借契約書
第8条 乙は、甲の承認を得ないで、貸付物件を転貸し、又は貸付物件上に所在する自己の施設に賃借権その他使用又は収益を目的とする権利を設定してはならない。
2.北海道と蘭越町との道有林野賃貸借契約は、更新ではなく、1年毎の再契約なので、事前協議を前提にすれば、再契約時に契約内容を変更することが可能。
借地借家法に縛られた住宅の賃貸借契約が更新を前提としていているのに対し、事業用物件は更新を前提とする必要はない。そして、北海道と蘭越町とで締結されていた道有林野賃貸借契約も、1年毎の再契約、つまり毎年、新たな契約は刷新されるものなので、事前に協議すれば条文の変更が可能である。
(賃貸借期間)
北海道と蘭越町の道有林野賃貸借契約書
第3条 貸付物件の賃貸借の期間は、平成28年4月1日から平成29年3月31日までとする。
2 乙は、貸付期間満了後において引き続き貸付物件を使用とするときは、貸付期間満了の日の30日前までに、その旨を書面により甲に通知さひなければならない。
3.実際、北海道が転貸を認めたケースが存在する。
- 2019年08月08日に発表された、オリックス株式会社が建設に着手した北海道函館市南茅部地域で地熱発電所「(仮称)南茅部地熱発電所」は、国の土地を函館市た賃貸し、函館市はその土地をオリックスに転貸した。
- 北見市スキー場は、北海道の土地を北見市が賃貸し、北見市はその土地をスキー場運営会社に転貸することによって運営されている。
北海道が連帯保証人を求めたのは、蘭越町が賃貸権を譲渡しようとした
初回公募において、UTグループが反発したのは、蘭越町が後から連帯保証人を要求したからである。そして、北海道が蘭越町に連帯保証人を要求したのは、蘭越町が賃貸権保有ではなく、賃貸権の承継を選択したからだ。
もし、蘭越町が指定管理者制度または転貸を選択したなら、北海道が連帯保証人を要求することはない。地方自治体は、民間企業のように簡単には倒産しないからだ。
北海道と蘭越町との賃貸借契約について、すこし関連書類を掘り下げてみよう。
チセヌプリCATスキー中、「区域全体の賃貸が許された背景」にも示した通り、北海道が蘭越町の賃借申請を承認を証するために作成した内部書類には、「蘭越町が施行体であるので信用確実である。」と記されている。そして、賃貸契約書に保証人はない。
つまり、民間企業ではなく、地方自治体であることが、賃貸を承認した理由でなのである。それなのに、蘭越町が賃借権を手放して、民間企業に賃借権を承継しようとしたから、連帯保証人を求められたのである。